紫色のクオリア

うえお久光紫色のクオリア」(電撃文庫)を読みました

自分以外の、人間をはじめとする生物全般がロボットに見えてしまう紫色の瞳を持つ、毬井ゆかりさんと、
そのお友だちの、波濤マナブさんのお話です。

・毬井についてのエトセトラ
・1/1,000,000,000のキス
・If
の三編というか二編とエピローグ、になっています。



・毬井についてのエトセトラ

毬井ゆかりさんは、自分以外の人間がロボットに見える、と言っています。

その話が真実かどうか、他人に確かめる術はありません。

ただ、外見がロボットに見えるというだけでなく、普通の人間には知覚することのできないけれどもその人に備わっている機能やら能力やらを、認識できたりします。

そして、語り手である波濤マナブさんは、とある事件を通じて、毬井ゆかりさんの能力の真価を知ることになります。



・1/1,000,000,000のキス

で、おそらく、こちらが本編と言って差し支えないかと思うのですが、
いや、毬井ゆかりさんに関しては、前述のエトセトラによってほとんど描写されているので、
こちらはほとんど、波濤マナブさんのお話、ということになるのですが、
先の事件を受けて、とある能力が備わった波濤マナブさんの身に起きた、とある事件―あるいは一生?―のお話になります。

シュレディンガーの猫さんを例に出したりして、量子力学がどうこうとか小難しい言い訳も用意されてはいますけれども、
要は平行世界もの、ということになるようです。

Something Orange さんでは、「ドライブ感」と表現していましたが、世界が次第に拡大し、歪み、変革されていく疾走感は、まさにすさまじい、の一言です。

作中に、アリス・フォイルという人物や「ジョウント」という組織が出てきたりと、アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」からの引用が見られますが、
あの作品のような、強い執着心を動力源として、物語は加速していきます。



で、同じくSomething Orange さんが、この「紫色のクオリア」を読んだ読者は、何かしら過去の作品の名前を思い浮かべると思う、と書いてらっしゃるわけですが、
ぼくの場合は、某エヴァンゲリオンの二次小説の、「限りなく 声 響き」という作品でした。

エヴァの二次創作にはループもの、逆行ものというのが一大勢力になっているのですが、
ぼくは「RE-TAKE」という大傑作を最近まで知らなかったりと、さほど詳しいわけではないものの、
個人的には、あの「限りなく声響き」というお話は、ループもの・逆行もののひとつの到達点なのではないかと、勝手に思っていたりします。

…世の中にはもっともっといろんなお話があるのでしょうけども。



そんなこんなで、主要な登場人物が女性ばかりと、ソフトめな百合ゆりとしても、楽しげなお話でした。

が、一番気になってしまうのは、唯一男性としてほとんど名前だけちょびっとだけ登場する加則くんが持っているらしい?というドリルだったりして。