孤笛のかなた

守り人シリーズ」の上橋菜穂子さんの、「孤笛のかなた」を読みました♪
2007年本屋大賞[発掘本]だそうです。



舞台は、日本の戦国時代風の設定で、呪いなどの術が争いの道具として使われています。

物語は、人の心の声が聞こえる不思議な力を持った女の子・小夜が、傷付き犬に追われていた子狐・野火を助け、森陰屋敷に閉じ込められている少年・小春丸と出会うところから始まります。


小春丸は領主の世継ぎとして陰謀から身を守るために長年屋敷に閉じ込められて、鬱屈した思いを膨らませています。

野火は、元は神の世の棲む霊孤でありながら、人の呪いに捉えられて、陰謀の道具としてのみ存在を許されています。
また、人である小夜に魅かれながらも、種族の壁とその身にかけられた呪いのために近付くことを避けます。

小夜は、産婆を生業とする祖母に育てられましたが、亡くなった母親から受け継いだ不思議な力のために、陰謀に巻き込まれていきます。

国と国との争いの中、陰謀に巻き込まれていく小夜と野火との、種族を越えた心の交流が、優しく、力強く、描かれているように感じました。



本作の雰囲気は、「呪い」や「死」のイメージが濃く、暗く沈んだような印象を受けます。

領主たちの間には先代から続く深い怨恨があり、権謀術数を担う呪師たちも先祖の業を背負っています。

その中で、小夜のお祖母さんの、
「とりあげ女は、自ら穢れのなかに手をつけて、赤子をとりあげる。貴いけれど、おそろしい仕事だよ。」
「産も死も、あの世に近い。」
といった言葉や、隣国の呪師で野火の主である久那の、
「祖先のおろかさを呪ってもしかたがない。」
「わずかなことによろこびを感じながら、歩きはじめた道を最後まで歩くしかない」
といった言葉が、印象に残ります。

呪いや死、恨みや憎しみが渦巻く暗く深い闇の中で、各人がそれぞれ懸命に生きようとしている姿勢が、儚い光のように描かれていると感じました。




ラストシーン、桜吹雪の中で光り輝く小夜と野火の姿は、暖かくて、綺麗で、どこか儚げで、切なくて、じんわりと胸に染み込みます。