ハケンアニメ! 感想

辻村深月ハケンアニメ!」、マガジンハウス

アニメがお仕事なお話。
アンアン誌に連載されたものだそうです。

CLAMPさんの表紙に目を引かれて気になっていた上に、「少女革命ウテナ」「輪るピングドラム」の幾原監督が関係しているらしいっぽいみたいなような噂を目にしては、読まずにはいられませんでした。
(幾原監督のお名前は巻末の謝辞にも記載あり。)

制作進行、監督、アニメーターとそれぞれ異なる立場でアニメーションに携わる3人の女性が主人公。

どうしてアニメ業界に入ったのですか?

三人三様の背景がありながらも、アニメーションへ向ける情熱はそれぞれ一級品。
そんな彼女たちが、「覇権アニメ」という、ネットで独り歩きしてしまったような冠を目指したり、なんだりかんだり。
自分の仕事に誇りを持つことができるというのは素晴らしいことだなあと、キラキラ眩いばかりです。
うらやましい。

「作家がその読者に払い得る最大の敬意は彼らが期待するものを書かないことである」みたいな格言を知ったのはカウボーイ・ビバップの「よせあつめブルース」ででしたが、
本書は逆に、読者が期待するものを期待通りに、あるいは期待以上に、綺麗で優しくてキラキラした部分だけを描いてくれています。
真剣に、真摯に、ただひた向きに、より良いものを作ろうとする姿勢を登場人物全員が持っていて、なんだかもうまるで理想郷。

ただ、同時にそれは冷酷な実力至上主義の世界でもあって、能力がある人間はキラキラと輝けるけれども、能力が要求される水準に至らないと容赦なく淘汰される世界でもあるようです。
自分のようなコミュしょうな凡人には、憧れだけでふらふらと門を叩くことができたとしても、あっという間につぶれてしまう未来しか見えません。

登場人物に行城さんの部下の越谷さんという人がちらりと出てきますが、どんくさくてホウレンソウがちゃんとできていないと、途端に現場を悪化させてしまう、みたいな。

ついったで見かけた、
・報告→叱られる
・連絡→叱られる
・相談→叱られる
というのがあるあるすぎてつらい。
仕事ができる人はそんなのも難なくこなしてテキパキと段取りを進めていけるのですから、やるせないです。

彼ら仕事できる族とはどこで差がついたのかといえば、それはもう日々常日頃からの積み重ねなのでしょう。
休日に本屋の店員さんくらいとしか接しなくて言葉を発する必要のないような生活をしていたら、そりゃあコミュニケーション能力は衰退していく一方です。

自分語りが過ぎました、閑話休題

アニメーションの隆盛に伴ってその制作現場にも注目が集まる昨今、スタジオジブリの密着ドキュメンタリ映画「夢と狂気の王国」は言うに及ばず、テレビアニメシリーズでも「SHIROBAKO」というまさしくアニメ業界お仕事ものが放送予定とのこと。

まんがでは石田敦子さんの「アニメがお仕事!」というアニメーターさん中心のお話がありましたし、トリガーの舛本和也さんの「アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本 」(星海社新書)では制作進行の立場からアニメーション制作の全体像を俯瞰することができました。

加えて、「ジブリの教科書」シリーズ(文春ジブリ文庫)などジブリ関連の書籍をちょいちょいつまみ読みしていると、
あら不思議、まるで業界人になったかのようにアニメーション制作を知ったような錯覚に浸れます。

本書もまた、アニメーションに携わるお仕事ってこんなに楽しいですよ〜、というのをまざまざと見せてくれます。

もちろん綺麗な部分だけでなくて、監督さんクラスの人が会社所属でなく独立してフリーランスになっていく事情だとか、声優さんの配役に関するいざこざだとか。
アニメーターさんと触れ合う中でのちょっとした勘違いからくるすれ違いだとか。
尊敬と憧れと恋愛感情とが入り混じるような複雑な心境だとか。

声優さんと結婚したかったらまずファンであることをやめましょう、みたいな噂話もありましたが、そんな感じ。

人間関係ってめんどくさい、社会人ってめんどくさい、経済社会ってめんどくさい、と思ってしまいますが、そんなものはアニメーション業界に限ったことではないのでした。
そんな中で主人公格の力を発揮するためには、「え?、なんだって?」級の鈍感さを身につけておく必要があるのかもしれません。

そんなこんなで、女性3人の主人公に対してはそれぞれ対になる男性も並び立っているわけですが、中でも伝説のアニメーション監督・王子千晴さんのヒロイン力はかなり高いのではないかと思うのでした。

あ、スロウハイツの神様とかVTRとかも読めたら読みたいリストに入れておきます。

ハケンアニメ!

ハケンアニメ!