知らない映画のサントラを聴く

竹宮ゆゆこ知らない映画のサントラを聴く」、新潮文庫nex

とらドラ!」で高校生を、「ゴールデンタイム」で大学生を描いた著者の新作は、23歳大卒自宅警備員

着実に階段を昇っているようで知らぬ間に踏み外している感じが恐ろしい。

「恋愛小説」と謳われていますけれども、全体の3/7くらいまでは男子側の姿はほとんど無いし、男子が出てきてからも、これ恋愛なの?、と疑問符が浮かびっぱなしではありますが、むしろその上に書いてある「贖罪」のお話なのでありましょう。

以下、ネタバレ注意。














あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」における、ゆきあつさんルートとでも言うべきか。

Kanon」の川澄舞さんを思い出すこともできるかもしれません。
舞さんはセーラー服ではなかったような気もしますが。

AURA〜魔竜院光牙最後の闘い〜」の佐藤良子さんでもいいかもしれません。
が、佐藤良子さんは黒髪ロングではなかったような気もします。

もしくは、「恋愛」を狭義の男女間に限定しなければ、あるいは?

でも、やっぱり「恋愛」って感じではないような。
なんというか、もっと淡い。

とはいえ、「贖罪」といっても罪を贖うために何かを為すわけでもなく、むしろ後悔と懺悔のお話とすら言えるかもしれません。

とにかくまあ、実家寄生型大卒自宅警備員の生態が、残酷なほどにまざまざと描かれます。

決して何もしていないわけではなく、食器も洗うし台所シンクも磨くし洗濯も風呂掃除も、と家族のために励む部分もあるのですが、そこからの突き落とされ具合は、読んでいていちばんきつかった部分かもしれません。

この著者さんの作品ではしばしば、このどん底感がクセになるから厄介です。

持ち上げられて、突き落とされる。

感情の上下動の落差が激しいです。

……あ、ここまで書いて今ごろ気づきましたが、このヒロインさんはじんたんさんだったのか。

ますます「あの花」感。

とはいえ、ミステリではないので、事件の真相は闇の中。

事件の真相よりも、各々がそれをどう受けとめてどう乗り越えていくか。

内面のお話に帰結していきます。



そんなわけで、じんたんさんことヒロイン・枇杷さんはわりと視野が狭くてうじうじぐだぐだした感じなのに対して、
ゆきあつさんこと昴さんはいちおう社会人でもあり、わりと能動的というか強引な面もあって、お話を駆動していく力になっている、ような気もします。

非DTの余裕なのか、ふにゃふにゃのかわうそさんが歯止めになっているのかわかりませんが、枇杷さんに積極的に関わろうとするわりにはがつがつしてなくて微妙に適度な距離感。

そのあたりの機微こそが、本作の肝でもあります。

そういえば、かわうそさん的なアレの暗喩の元ネタはあざらしさんでしたかオットセイさんでしたか。

ネットのネタで見かける程度で本物はよく知らなかったり。

ブーツの暗喩も元ネタあるのかしら。

ともあれ、今の時代に誰かと関わろうとと思ったら、このくらいの強引さが無ければならないのかなあと思うと、気が遠くなります。

一方で、今回は双方が成人しているからいいものの、片方が未成年だったりしたら刑事的な事案かもしれず、あかんやつだこれ。

この作品はフィクションであり、よい子の大人は真似しちゃしけません。

枇杷さん危機感足りなさすぎ。



p.311、「生ぬるい目」、「優しい気遣いの目」、のくだりはドラえもんさんリスペクトかしら、とか思いましたが、意識しすぎだったかも。
ドラさんはあったかーい目、でしたか。

枇杷さんが押し入れで寝起きしたりするものだから、なんとなく引きずられてしまったのかも。

昴さん視点で見れば、ある日ドラえもんさんをひろったよ、ということになるのかしら。
たぶん違いますね。



そんなこんなで、清瀬朝野さんの不在の存在感が際立つのでした。

あと、便所サンダルとジャージとコアラTシャツと箸と、知らない映画のサントラ。

あ、兄嫁のチェリーさんという名前のせいで、緒方智絵里さんまで腹黒く見えてしまう副作用がありますので、プロデューサーの皆様におかれましては要注意。