風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子 感想

堀辰雄風立ちぬ・美しい村・麦藁帽子」、角川文庫
作品集。

「美しい村」

避暑地の村に逗留している自称作家さんのお話。
留守な他人の別荘に勝手に上がり込んでまったりするなど自由気ままな感じ。
後半、絵描きの女性と仲良くなるあたりがちょっぴり例の映画の雰囲気かしら、などと。
基本的に一人称なので、なんだか最近流行の自意識過剰な高校生が主人公のらのべっぽい雰囲気もありつつ、風景描写やら植物の観察やらの繊細さは、らのべではあんまり見掛けない気もします。
昔の女性友達を巧みに避けつつも、しれっと新しく絵描きの女性と仲良くなる手腕は、いけめんさんならではなのでしょうかなあ。
最後は何か劇的なイベントでも起こるのかと思いきや、そんなことはなくぐだぐだに終わって拍子抜けしました。

「麦藁帽子」

おさななじみっぽい妹分な女子さんと、なんとなくいい雰囲気になりつつもさほど仲が進展したわけでもない中でいつの間にやらNTRっててびっくり。
いやはや、ままならないものです。
二人称に「お前」を使っているのでてっきり親密になるのかと思ってたのに、そんなことはありませんでした。

「旅の絵」

ホテル・エソワイアン滞在記。
日本の神戸のはずなのに外国の人に囲まれた異国情緒な雰囲気。
ハイネはわかりません。

「鳥料理」

夢のお話。
ホラーでした。

風立ちぬ

序曲、風立ちぬ、冬、死のかげの谷、の4編。
例の映画はほんとうにごく一部というか、原作どころか原案かどうかもあやしい程度に感じました。
仕事もせずに病人さんに寄り添えるというのは作家さんだからこそだよなあという点で、やはり堀越二郎さんのほうにこそ感情移入しますが、途中からはこちらの主人公さんも節子さんをほったらかして仕事の思案に没頭するあたり、当時の男性は仕事が好きだったのだなあと思わされました。
なんならこちらの主人公からも庵野さんの声が聞こえてきそうな水準。
でもやはり映画とは別物ですね。

「『美しい村』ノオト」

美しい村のネタバレというか言い訳というか。
実話が元になっている、ということかしら。

「解説」

いろんな視点からの解説。
堀辰雄さんの文学的立ち位置がどうのこうの。
堀辰雄以降の歴史に身を置く立場からはあんまりその新しさはわかりませんが、当時は絶賛の嵐でした、という記録でしょうか。
「軽井沢」という地名に対するイメージは堀辰雄さんによるところが大きいというのは、その影響力の大きさを物語っているようです。


風立ちぬ・美しい村

風立ちぬ・美しい村