花宵道中

宮木あや子花宵道中」(新潮文庫)を読みました

『江戸末期の新吉原を舞台に綴られる、官能純愛絵巻。』だそうです。

「女による女のためのR-18文学賞」を受賞した表題にもなっているデビュー作を含む、連作短編集で、

中〜小規模な小見世の山田屋さんを舞台として、そこで生活する女郎さんたちの姿が描かれます。

ちょうど放送中のTVドラマ「JIN-仁-」でも舞台として登場したりしていたので、視覚的なイメージを捉えやすかったのは、時期的にありがたかったです。



R-18とか官能とかを冠している通り、とても直接的で具体的で官能的な描写がしっかりと含まれてはいるものの、
単純に実用的なだけでなく、むしろ、それだけしっかりと描写されているからこそ、そこでの内面心理が浮き彫りになるようで、
この表現がなければ成立しないのではないか、というくらい、重要な役割を占めているように思います。



以下、思いっきりネタバレします


花宵道中」では、朝霧さんが主人公。

朝霧さんはお酒が入ると肌に花が咲くことが評判で、年季明けを間近に控えていたのですが……

なんといっても、朝霧さんの肌に浮かび上がる花のイメージが、その場の状況も相俟って、艶めかしく、切なく、鮮やかで、目に見えるようです。

NTRの極みとでもいうのでしょうか。

一方、題名にもなっている「道中」の場面は、反転して、澄み渡るような真っ青なイメージで、重要な意味を持つ「青」の印象が深く刻まれます。



「薄羽蜉蝣」は、朝霧さんの妹女郎・八津さんの、さらに妹女郎にあたる茜さんが主人公。

初見世を間もなく迎えようとしているものの、茜さん自身は、茶屋で大見世の売れっ妓女郎さんと逢引している船頭に興味を引かれていて……

なんというか、こういう初見世を大切にする伝統が、某かんなぎ騒動みたいな人たちに受け継がれているのかしら、とか。

えるおーとか読んでいると、わりかしよくあることにはなってくるものの、
なかなか慣れるものではないですな。



「青花牡丹」は、朝霧さんの姉女郎にあたる霧里さんと、もう一人、東雲さんという男性と、二人の視点が交互に描かれるお話。

これを読むと、「花宵道中」がさらに一層切ないお話になります。

あれがこう繋がるのか〜、と。

題材としては、思いっきりの近親ネタで、悲しいくらいに悲劇が連鎖していきます。



十六夜時雨」は、前にも出てきた朝霧さんの妹女郎の八津さんが主人公。
あと、八津さんの妹女郎の三津さん。

山田屋さんのおおよそ一年をじっくりと描いたような、登場人物も多めの中編、でしょうか。

朝霧さんより後の山田屋さん総出演みたいではありますが、あまり賑やかな感じではなくて、淡々と日々が流れて行くような、しっとりした雰囲気を感じます。

朝霧さんの影響が確かに受け継がれていくのが、なんだかじんわりします。



「雪紐観音」は、桂山さんの妹女郎の緑さんが主人公。

桂山さんは、朝霧さんと八津さんの間くらいの世代?、で、緑さんは茜さんと同時期に初見世予定。

で、時期的には「十六夜時雨」と同じくらいでしょうか。

本書では唯一の百合要素ですかね。

なんというか、とっても官能的だと思います。



「大門切手」は、今まで名前すら出ずに女将さんとしてだけ登場していた、山田屋さんの女将さんの勝野さんの昔話。

あと、髪結いの弥吉さん。

弥吉さんは、他のお話でもちょこちょこ顔を出していて、特に朝霧さんや茜さんとは深い関わりがありそうな雰囲気で描かれていましたが、
そのあたりの描写もしっかりと背景があったのだなぁ、と。



それぞれのお話は色が異なるものの、一冊を通しての芯はしっかりと貫かれていたのかなぁ、と思います。