MAMA
ガーダルシアには、〈人喰いの魔物〉がいました。
主人公のトトは、魔術師の一族サルバドールに生まれながら、魔術の才には恵まれず、〈サルバドールの落ちこぼれ〉と呼ばれていました。
トトはある日、封印されていた〈人喰いの魔物〉に出会い、解き放ち、魔力を得、名前を与えて、彼の母親になります…。
帯にあるとおり、
『それは、莫大な魔力を持つ、孤独な〈人喰いの魔物〉と、彼の母親となった、一人の落ちこぼれ少女のおはなし。』
です。
歪ながらも純粋な、家族ではない家族のお話です。
やや展開が速い感じを受けますが、この結末を迎えるためには必要なことだと納得です。
本書は二部構成になっついて、表題作に加えて、続編のような、後日譚のような、前日譚のような「AND」も収録されています。
こちらは、〈人喰いの魔物〉の最初の犠牲者となった少年が身につけていた赤い耳飾りを軸とした、血のつながらない兄妹のお話です。
が、同時に、赤い耳飾りに託された想いのお話でもあります。
その想いは、確かに、しっかりと、まっすぐに、届けられました。
あとがきでの作者の言葉が印象的です。
『「愛」なんて言葉、好きなわけではないし、信じてもいません。それなのに、もはや愛しかないのだと思いました。』
MAMA、ANDともに、読後、まさにそんな気分になるような、優しいお話でした。
さて、「MAMA」と「AND」は、〈人喰いの魔物〉のお話として繋がっているわけですが、
この二つのお話を結び付ける重要な人物が、ガーダルシア王家の末妃、ティーラン様です。
権謀術数渦巻く王族のなかで、優雅で誇り高くも人情味豊かなティーラン様の姿は、出番は少ないながらも、魅力的に描かれています。
物語の中心にいるわけではありませんが、こちらにも別の物語があるようです。