映画「世界から猫が消えたなら」を観ました。
6月5日、横浜ブルク13にて。
原作未読。
脳腫瘍で余命わずかと宣告された佐藤健さんが、「いらないもの」を世界から消すのと引き換えに寿命を1日延ばしてもらう取引を、悪魔とするお話。
「世界から消える」という部分の細かい設定はいろいろと穴が多いように見える反面、原作なり裏設定なりではもう少ししっかりしているのかもしれないと想像しますが、
ともかく、そういう細かい辻褄を気にしない状態で見ていたので、自然にポロポロと涙がこぼれ落ちていました。
濱田岳さんが佐藤健さんのために最期の1本を探そうとするけど見つからないあたりとか、ぐっと来ました。
お母さんのエピソードも、「のび太の結婚前夜」を引き合いに出したくなりますが、他作品と比較するまでもなく普遍的な題材なのかもしれません。
「映画」がひとつの大きな柱になっているようで、引用も多いみたいですが、残念ながらぼく自身は昔の作品をほとんどろくすっぽ見ていないものでして。
「ライムライト」も「メトロポリス」も「ブエノスアイレス」も「ファイトクラブ」も「花とアリス」も見てなくて。
劇中の濱田岳さんのセリフを引用すると「映画は無限にある」わけで。
古典を知っておいたほうがいいだろうと思いながらも新作ばっかり見てしまいます。
時代を経ても色褪せないものもあるのでしょうけれども、今のものは今見ておきたいという気持ちもありまして。
いずれにしても消費しているだけにすぎないのもたしかではありますが。
ウィノナライダーという人をthe pillows の曲でしか知らないのはあまりよろしくないのかもしれませんけれども。
予告編から感じていたことですが、画面の色合いがなんとなく水色っぽい淡い色合いだったように感じられて、淡い稀薄な雰囲気がいいなあと思いました。
アルゼンチンでの暖色系の鮮明な色合いとも対照的だったような気がします。
設定の穴を気にしなければ楽しめると思う一方で、この設定の穴について、もう少し掘り下げてみるという楽しみ方もあるかもしれません。
つまり、「電話の無い世界」だったり「映画の無い世界」だったり「時計の無い世界」だったりが、それぞれどのような世界になるだろうか、という想像を広げる楽しみ方です。
たとえば、電話が無かったら。
会社の仕事はずいぶん違った形かもしれません。
電話一本で受注発注なんてわけにいかなくなるから、営業さんが足であちこち歩き回らなければならなくなりそう。
サザエさんの三河屋さんみたいに定期的な御用聞きスタイルにでもなるのかしら。
この場合の「電話」はあくまでも電話回線を使った通話だけが消えるのか、もっと通信インフラ全般に影響するのかも難しいところ。
スマホみたいな端末や公衆電話なんかも消えてしまってましたけど、インターネット的な通信網も消えてしまうのかしら。
コンピュータの普及すら怪しくなりそう。
過去に遡って存在を消されるとなると先の戦争の結果にも影響する局面とかあるのかもしれないし。
どこまで遡ればいいのやら。
あと、糸電話はどうなのかしら。
たとえば、映画が無かったら。
という仮定がまず難しくて、何がどこから映画なのか、という定義の問題になりそうというか。
紙があればパラパラマンガ的なものはできてしまうわけで、それを回転させてスリットとストロボの光の明滅でアニメートさせる機構だって誰かが作ってしまうでしょう。
フィルムや映写機の発明については違った形もあり得たかもしれませんが、同じようなものは誰かしらが作り出すことはできるはず。
ただ、技術的に可能であることと実際にそれが作られることとは直結しないわけだから、映写技術があっても、今のような「映画」として物語を紡ぐものにはならなかった世界線はあるのかもしれません。
劇中の濱田岳さんのセリフで言うと「何かいい物語があって、それを語り合える相手がいる」ことが大事であるのなら、映画ではなくて本だったとしても、同じように語り合うことはできたのではないか、とも思うのですが、本だと映画以上に好みのジャンルがバラバラになりそうですし、語り合える相手を見つけるのはより一層難しかったりするのかしら。
たとえば、時計が無かったら。
時間を測定するものは何らかの形で存在するのでしょうけれども、歯車機構的な時計が存在しないと仮定して。
そうなると、佐藤健さんの父親奥田瑛二さんは時計職人になることはできないわけで、母親原田美枝子さんと結婚することもなく、佐藤健さんが生まれなくなってしまいそうに思えます。
ドラえもんのタイムパラドクスの説明で、のび太さんがジャイ子さんと結婚しようがしずちゃんさんと結婚しようがセワシさんは生まれてくるのだという説明がありましたが、ジャイ子さんとの間に生まれた子たちはどうなったんだろうという疑問があるわけです。
何がどう関わっているのかハッキリとはわからないくらい、いろいろな事象が複雑にこんがらがってこの世界は成り立っているわけで、何かひとつの要素がそれだけポッカリと消失してしまうというのは、かなり難易度の高い思考実験なのかもしれません。
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