いわゆる「だまし絵」のような作品はいくつか見たことありましたが、本展覧会では、そのスタイルが確立される以前の初期の作品群から時系列で展示されていて、その作品のモチーフや興味対象の変遷をみることができます。
版画の技法云々についても説明がありましたが、凹版と凸版の違いくらいしか理解できていないのは少し悔しくもあり。
版画のギルドみたいなのに所属していたとかなんとか。
そのあたりの世情とかも知っていればもっと理解が深まるのかしら。
旅行だったり移住だったりでヨーロッパ各地を転々としていたらしく、絵画(版画)のモデルになった実際の場所の地図とか写真も展示されていて、奇抜に見える建物も実在のものだったりするようで、ほえーっとなりました。
写実的な作品から、次第に空想混じりの作品へと移り変わっていくわけですが、並行するように、平面の正則分割と呼ばれるような、わずか数種類のパターンの組み合わせだけで平面を埋め尽くすパズルのようなものにも興味を引かれていったようで。
はじめのうちは形が不揃いなジグソーパズルのピースを動物に見立てたようなものだったのが、だんだんと、ピースの種類を減らしていく感じというか。
「ルビンの壺」のように、黒地と白地の組み合わせで、注目する部分によって見える模様が違ってくるようなものがあるわけですが、
エッシャーは、そこから更に、平面から模様が飛び出してくるようなイメージまで形にしていきます。
鳥と魚を組み合わせた正則分割から、魚は水に潜って泳ぎ出し、鳥は空へと舞い上がって羽ばたいていく。
黒地の怪物と白地の人間とが平面から飛び出してぐるりと円周上を歩いてきてこちら側でばったり遭遇する。
模様の連続性を時間の連続性へと読み替えて、静から動への転換、躍動感を感じます。
まさしく、「時は動き出す」。
絵画として額縁の中に切り取られた時間が、動き出すかのようです。
魚の形をした飛行船のようなミサイルみたいな物体を、立体的に等間隔に並べる作品では、ヒレを上下左右につけて、
体育の授業の体操で両手を左右に伸ばして立ち位置の間隔をはかるように、ヒレの長さで上下左右の距離感を出したり、パースをつけて手前と奥との大きさで遠近感を出したり。
製作過程のメモ書きも一緒に展示されていて、大きさや間隔やアングルといった構図にものすごく手間をかけていることがわかります。
今ならコンピューターでコピーアンドペーストでちょちょいと同じ図像を並べて配置することができたり、(実際にできるのか知りませんが)パースをつけたり視点の位置を動かしてアングルを決めたりできるのでしょうけれども、手作業であれをやるのは相当の根気が必要だろうと思えます。
展示数もかなり多くて、満足感がいっぱいでした。