TATSUMI マンガに革命を起こした男 感想

映画「TATSUMI マンガに革命を起こした男」を観ました。

R15+。

恥ずかしながら、辰巳ヨシヒロさん、存じ上げませんでした。

基本的には、辰巳ヨシヒロさんの作品を基にしたアニメーション(というか、マンガの絵柄をそのまんま動かす手法)で、
ブラック気味な短編集という感じで、それはそれでおもしろいのですが、
「マンガに革命を起こした」という表題部分に関しては、ちょっとわかりにくかったように思います。

既に「劇画後」の世界に生きている現在となっては、辰巳ヨシヒロさんご本人の作品群だけ並べられても、その業績を実感するのは難しいように感じます。

マンガ文化のそれまでの情勢とか雰囲気とか、どういういきさつがあったのか、みたいな、
劇中で言われる「こどもマンガ」がどのくらい世界を席巻していたのかが肌感覚としてわからないので、そこから発展して独立するための「劇画」の意味合いが、そこまで大きなものには見えなかったといいますか。

いきなり、「こどもマンガ」とは異なる「おとなマンガ」を立ち上げよう、とか言われても、
まあ、PTAから糾弾されたみたいな話は挿入されていたにせよ、
ちょっと唐突というか、どうして辰巳ヨシヒロさんだったのか、みたいな部分は見えなかった気がします。

対比として手塚治虫さんの存在が大きかったっぽい雰囲気ですが、
手塚治虫作品を実体験できた世代が、今現在、どのくらい居るのやら。

手塚治虫とは何ぞや、みたいなところから説明が必要な時代を迎えているような気がします。
(単にぼくが無知なだけ、とも言えますが。)

特定の分野では定説となっている事柄や用語であっても、まったく畑違いのド素人で予習とか事前学習なんざする気もさらさらないような不勉強な人間がたまたま触れることを想定した説明でもあると、たいへんありがたいのですけれども。

その点は、ある程度のマンガ史のようなものをある程度、嗜んでおくといいのかもしれません。

エロマンガ・スタディーズ」とかなんちゃーらなんちゃーらなんちゃーら。


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映画に引用されている短編は、ヒロシマを題材にしていたり、高度経済成長期みたいな中ですりつぶされていく工員さんだったり、同じく高度経済成長期を働き通して定年退職を迎えようとする課長さんだったり、スランプに陥った漫画家さんの姿だったり、戦後に米国兵さんを相手に商売していたお姉さんだったり。

年齢制限がどの部分に引っかかったのかわからない程度には、えろ方向にもぐろ方向にも過激な描写が挿入されていた印象です。



ヒロシマのお話は、単純なゲンバク怖いにはとどまらず、もう一歩深いところでの人間の怖さ。

えぐい。

「過ちは繰返しませぬから」の碑が、いっそうの皮肉感。



工員さんのお話は、今なら、適応困難的なアレになりそうですが、ああいう方々に社会が支えられていたのかしら、みたいな。

「ブルースドライブモンスター」で「満員電車に乗れなくて♪」と歌われていたよりも更に厳しそうな感じ。

重機械で作業中にぼけーっとしてるのは、ほんと危険。
ボール盤でさくっと指先切った程度の体験談)

藤子F先生の「ころりころげた木の根っこ」でも描かれてましたけれども、お猿を一般家庭で飼育するのが流行した時期でもあったのかしら。



課長さんのお話は、某神社の砲台が、なんとも象徴的というか、反転して切ない。

いざというときに限って役に立たないというのは、なんとも物悲しいお話です。

それにしても、あんな窓際課長さんを残り数ヶ月とはいえちゃんと雇用維持できるとは、昔はほんとに景気がよかったんですね。



スランプというか、打ち切りの憂き目にあった漫画家さんは、それでも10年近く連載できていたことがすごいような。

公衆トイレの内壁の落書きって、最近はあんまり見かけない気がしますけれども、今でもあるところにはあるのかしら。



米国兵さん相手の商売のお話は、もう、最初から「そうなりそう」な雰囲気がそこはかとなく漂っていましたが、まさか本当にやらかすとは。

ずいぶんと挑戦的な感じです。



そんなわけで、個人的な知識を総動員したところで、FよりもAっぽいかな、という素人丸出しの感想が出てくるにとどまるのでした。