美少女の美術史

静岡県立美術館「美少女の美術史」へ行ってきました。

11月16日まで開催。

古代・近代絵画から、現代のマンガ、アニメ、フィギュア等に至るまで、日本美術において「少女」がどのように描かれてきたかを辿る展覧会でした。

絵画のモチーフとして「少女」が描かれること自体に、これまでは何の疑問も持っていませんでしたが、時代背景などを見ていくと案外、一筋縄ではいかないみたいです。

「少女」の発見だの、近代的モラトリアムだの。

日本国内の美術作品に限定されていましたが、外国も含めると更に複雑になるのかしら。



テヅカ・イズ・デッド」の影響で、手塚治虫以前以後史観というものを知ったわけですが、(テヅカ・イズ・デッドではその史観を見直すべきみたいな主張のようですが)、
今回展示されていた高畠華宵という人には既に現代のマンガのような、輪郭線がくっきりして目がぱっちりした頭身の高いイラストレーションみたいな絵もあって、あ、マンガみたい、とか思ってしまいました。

戦前もそんなに変わらないんだな、みたいな。

高橋真琴さんとか水森亜土さんとかなかよしとかの少女マンガの系譜に並ぶような展示だった気がするので、そういう流れもあるのかもしれません。

丸尾末広さんも影響を受けたとか解説に書いてありましたし、高畠華宵さんを知ることができたのは大きな収穫です。



マンガ方面では他に、志村貴子さんの「青い花」や、吾妻ひでおさんあたりのマンガの原画も展示されていました。

青い花は、あれは最後のほうのネタバレだったのかしら。
よく覚えてない上にたぶん最終巻を未読という不覚を重ねているのでちゃんと判断できないのが悔しいです。

あと、丸尾末広さんの「少女椿」や、高橋しんさんの「最終兵器彼女」も。



アニメ方面では、魔法少女の系譜として、「リボンの騎士」から「ひみつのアッコちゃん」、「ミンキーモモ」、「クリィミーマミ」、「まどか☆マギカ」あたりまで。

月に代わるあの方や、ニチアサのあの方はなかった気がしますが、それらのオマージュと思われる「6 (ハート) プリンセス」(以下、6HP)とかいうアニメーションが上映されていました。

エンディングではlivetuneさんの初音ミクさんっぽい歌声に合わせてヒロインさんたちが踊っていて、まさしく、あのへんの感じだったと思います。
巨大化女子の破壊力。

コスプレした西洋風のお姉さんが秋葉原で踊っていたのは関連性がよくわかりませんでした。

6HPは、頭身は低いですが、さすがにgdgd妖精sさんとかあのへんのMMDと比べると格段に画像精度が高くて、すごいです。

が、あの品質でテレビシリーズは難しそうな気もします。



あと、太宰治「女学生」のアニメーションも上映されていました。

朗読は遊佐未森さん。

映像そのものも幻想的ですごいですが、メガネに対する偏愛がすごいです。

まさしく質アニメ。



アニメーション関連という括りにしていいのかわかりませんが、フィギュア類もけっこう展示されていていました。

うる星やつら」のラムさんから、「エヴァンゲリオン」の綾波レイさん、(たぶん)惣流アスカラングレーさん(もしかしたら式波さんだったかも)、真希波・マリ・イラストリアスさん、だったり、
らきすた」、「けいおん」、「艦これ」、「ああ女神さま」、「マクロスF」などなど。

四谷シモンさんの球体関節さんと同じ空間に並んでいるから壮観です。

真希波さんと言えば、また別の展示で「真xx・マx・イxxxxxx」みたいに題された、絵だか写真だかもあって、メガネを外した真希波さん風の人物が描かれていたのですが、あれはけっこう衝撃的な作品でありました。

ヘッドホン少女も、絵なのか写真なのかわかりませんでしたし、人形をモデルに写真から絵に起こしたという作品も一見ではわからないので、外側からは二次元の世界では絵も実写も大差なく見えてしまっても仕方ないのかもしれません。

ただ、映画「たまこラブストーリー」の監督さんが言っていた(らしい)、
「アニメじゃなくて実写でやればいいのに、という人がいるけれども、絵描きさんがその美意識をもって切り取って描いた世界のほうが素晴らしいに決まってる」みたいな主旨の発言は納得できる部分も多いわけで、
絵の力ってすごいと思います。



それにしても、「少女」ではなくて「美少女」と表記した場合に何故だかマンガ/アニメ的な二次元の絵柄を想起してしまうのは、それだけ刷り込まれてしまっているということなのかもしれません。

(象徴的なのは図録の表紙にもなっているMr.さんの絵柄みたいな、目が大きくてピンク色の髪のイメージ)

もちろん、「美少女」という単語から、身近な実在の人物を思い浮かべるかもしれないし、テレビで活躍するアイドルさんを念頭に置くかもしれませんが、
少なくとも今回の企画展では、意図的にマンガ/アニメ分野を含む形で「美少女」という表記を使っているわけです。

で、たしか「エロマンガ・スタディーズ」からの知識だったと思いますが、「美少女」表記をそういう用途に使い始めたのがいわゆるロリコン雑誌と呼ばれるマンガ群だったらしいわけですから、
こうして美術史という観点に組み込まれると、「美少女」という単語から漂うそこはかとないいかがわしさもどことなく高尚なものに思えてきて奇妙な感じです。

「美」を頭に付けたのは見られる客体としての存在を強調する意味合いもあるらしく、展示の終盤ではその客体からの叛逆みたいな流れもあったりなんだり。

「美しければそれでいい」なんて歌もありました。