神の守り人

上橋菜穂子「神の守り人」上・来訪編、下・帰還編(ともに新潮文庫)を読みました

前巻にあたる「虚空の旅人」と同時期のお話でしょうか。

今回は、シンタダン牢城で起こった不可解な虐殺事件を発端として、ロタ王国を揺るがす騒動に、女用心棒のバルサさんと薬草師のタンダさんが巻き込まれていきます。


ロタ人、タルの民、カシャルの民、といった氏族の差異の問題だったり、
南部と北部の地域間格差の問題だったり、
海の向こうのタルシュ帝国の脅威だったりと、
国家レベルの大きな視点も交えつつも、
バルサさんが関わることができるのはあくまでも個人のレベルでしかないんだな〜、という感じでしょうか。

ラスボスと思われるとある人物が、主にマクロな視点で行動しているのと、ちょうど対になっているのかもしれません。

時流をも支配しかねない能力は、今後、脅威になってきたりするのでしょうか。

タルシュ帝国の動きも、前作同様、不気味です。


とはいえ、いろいろ提示されてきたロタ王国の諸問題は、作中ではほとんど解決していないわけで、ちょっぴり物足りないというか…

お話としては、不自然にハッピーエンドになることもなく、静かに幕が降りた感じで、余韻というか、いろいろと複雑な思いが残ります。


マクロなお話は、チャグム殿下に期待、ってことにすればいいのかしら。



読んだ順番は前後しますが、「獣の奏者」で描かれた、ヒトには御しきれない強大な力を扱う、という意味では、同じようなテーマなのかもしれません。

あるいは、人間そのものの一面を抉り出すという意味では、より直接的かつ根源的な描写かもしれません。