ハイヒール革命! 感想

映画「ハイヒール革命!」を観ました。
9月17日、シネ・リーブル池袋にて。
舞台挨拶付き。

MtF の人のお話。

構成としては、主人公である真境名ナツキさん本人のインタビューや述懐や、関係者との対談があったり、濱田龍臣くんが真境名ナツキさんに扮する再現ドラマパートがあったり、真境名ナツキさんの私生活に密着したり。

いろんな角度とかから、MtF一般というよりも「真境名ナツキ」という1人のヒューマンの在り方を浮き彫りにしていきます。

放浪息子」を実際に体現した人として見ると感慨深いというか、ニトリくんを実写にすると濱田龍臣くんになるのか、と納得したというか。


中学校

中学校での教師側の姿が、生徒から見るとああいうふうに高圧的で無理解なように見えてしまうという主観的な映像と、
その場面の後で当時の担任教諭に話を聞くとあくまでもたくさんいた問題児のうちの一人でしかなかったり、教師側でも勉強会や会議を開いて対応を協議していたという話を聞いて、主人公の人の強硬な姿勢が和らいだり。
時間が経つと見えるものも違うのかもしれません。


高校

定時制高校ってあまり知らないのですが、良い友人たちとの出会いに恵まれたのだなあと思いました。

濱田龍臣くんの女子バレーボールユニフォームもぐっときます。

修学旅行の話題が出てましたけどお風呂はどうしてたんだろうとか下世話なことも気になったり。


私生活

パートナーの人が、おそらくFtMの人らしく、MtFFtMの組み合わせってなんだか複雑な感じもしてしまうものの、据わりはいいのかもなんて思ってしまったり。

パートナーの人は家事全般に万能であるのに対して、主人公さんはかなりぐうたらしていて、それまではMtFとしての権利を勝ち取るんだみたいな勇ましい面の印象が強かっただけに落差が激しくて、困惑しました。

こういう部分まで赤裸々に見せてしまうオープンさもすごいことなのだろうとも思います。


家族

母親の人が強いです。
あの母親の支えがあればこそ、というようにも見えました。

主人公さんへの理解もあるし、寄り添うように支えているし。
時には学校の教師陣に面と向かって抗議したりしたみたいだし。

仮に自分が親になることができたとして、子供がこういう悩みを抱えることになったとして、自分にはこのように振る舞うことができるかというと、難しそうな気がします。
もしかしたら悩んでいることにすら気がつかずに放置してしまうかもしれません。

親になる覚悟を持つというときに、はたしてどのくらいまで想定するものなのかしら。


全体を通して

あれだけ強い姿勢で権利を勝ち取っておきながら、その後の生活がぐだぐだというのが、なんかすごいです。

比較的多くの人にとっては就職が「自己実現」のひとつだろうと思いますが、本作の真境名ナツキさんの場合は、男性ではなく女性として扱ってほしい、という主張を通すことがある種の「自己実現」の目標のようになっていて、肉体的な手術やホルモン投与によって女性的な身体を獲得したり、周囲にもある程度は受容されてきたことで、それだけで満足してしまったかのように見えてしまいます。

女性の身体を獲得して、文字通りに「女性」になることができたとして、その先のビジョンが設定できていないのかもしれません。

比較的多くの生来の身体的性別に違和感の無い人にとっては誕生の時点でスタートラインに立っているようなものですが、
性別の同一性が一致しない人にとっては、そのスタートラインに立つまでに要する労力がどうしようもなく大きいというか、スタートラインに立つこと自体が目標にならざるをえないようで、
なんか、たいへんだなあとは思います。

性的マイノリティを一括りにLGBTと表記する手法があるようですが、おそらく、LGBの人はそのままでも日常的な生活が可能であるのに比べて、Tの人は日常的な生活を勝ち取るまでの障壁が高そうです。