おさん伝説〜遥かなる時をこえて〜 感想

関内ホールにて、第10回横浜市民ミュージカル「おさん伝説〜遥かなる時をこえて〜」を観ました。

横浜市民にはおなじみの吉田新田開拓にまつわる「おさんの伝説」をベースにしたお話です。

正味90分くらいでしょうか、途中で15分の休憩がはさまる2幕構成。
お話の切れ目としてはキリがいいところだったのかどうかは判断に迷うところかもしれません。
あと途中休憩があることを事前にアナウンスしておいてもらえたらよかったかも。(もしかしたらされていたのを聞き漏らしていたかもですが。)1幕目が下りたところで「え?、ここで終わり?」みたいなざわめきが立っていたような気がします。

このところ舞台演劇やミュージカルを題材にした映画をいくつか見てはいましたが、(幕が上がる、劇場霊、心が叫びたがってるんだ、等)、実際に生の舞台演劇を見たのはひさしぶりかもしれません。

舞台全体を使った大掛かりな歌とダンスも迫力ありましたし、客席の通路にまで役者さんが出てくる立体的な演出も面白かったです。
宙吊りで空を飛ぶ場面もありましたし、嵐で大洪水が起きた悲惨な事故も蛍光塗料のロープみたいなのを使ってどこか幻想的な感じでした。
何より印象的だったのは妖精さんを演じていた子役の人たち。おそらく見た目は子供でも実は長生きしてるみたいな存在なのかもしれませんけれども、ほんとに子供らしからぬ老獪な雰囲気を漂わせていた気がします。
歌声も綺麗でした。テーマ曲のように繰り返し歌われる、遥かな時を超えて〜♪、みたいな歌があったのですが、なんだかそれだけで涙ぐむくらい。
悲しいというよりも、もっと澄み透るような凛としたような、儚くとも確かな輝く何かが見えるような歌でした。

父の知り合いが出ているからと誘われて行ったものの所詮は市民演劇なんて素人芝居に毛が生えたくらいだろうと高をくくっていたのですが、実際に見てみたらそんなのは吹っ飛んで、どっぷりのめり込んで見ていました。
演劇の世界って眩しいですよね。


以下、覚えている範囲で大まかなあらすじを記録しておきます。わずか1日2回こっきりの公演のようなので、ネタバレ云々よりも記録しておくのが大事かとおもうので。
シーン名はパンフレットに記載されているものを参照しました。

【1幕】

1.謎の空間

スポットライトの中、赤子を背負って子守唄を歌う女の子の影。

2.天空

床に寝そべって、(おそらくテレビを見ながら)スナック菓子を食べてぐうたらしているスウェット姿の女性と、彼女を見守る妖精さんたち。
彼女はこんなにぐうたらしていてよいのだろうか。いや、よくない。(反語)
何か策を講じる妖精さん

3.スーパーマーケット

ご奉仕品の値下げを狙う買い物客と、店員さんとの、熱い戦い。
少しばかり唐突ではありますが、店員さんの「いらっしゃいませ」が劇場に来ている観客へ向けているようにも聞こえて、ここでぐっと心を鷲掴みにされました。

このやりとりの中で、先ほど(1.)のぐうたら女性(サナエさん)が、このスーパーマーケットの店員さんだとわかります。
また、お父さんが迎えに来ると言う女の子を含めた女の子グループや、入れ違いに迎えに来たとおぼしきお父さんがちらっと登場します。

閉店後、サナエさんを含む数人のグループで帰宅の途。
サナエさんは「お三の宮」へお参りに行って以来、ときどき頭痛が発症することを打ち明けます。

4.立ちのみバル

(ここのつながりがどうなっていたかうろ覚え)

おそらくテレビ番組。
超常現象の研究家みたいな人が出てきて前世の生まれ変わりみたいな話を披露したりなんやかんや。
それを見たパートのおばさんグループがサナエさんに催眠療法的なのを薦める。

5.病院

サナエさんが催眠療法を受けると「水で苦しむような目に合ったこと」「カンベエさんがキーパーソン」らしいことがわかる。

6.立ちのみバル〜7.街角

(よくわからない流れのまま)
パートのおばさんグループで探偵団を結成、「カンベエさん」についての聞き込み調査。
そのうちに高名な占い師さんの噂を聞きつけて相談へ行くことに。

8.占い師宅への道中

サナエさんを妖精さんたちが、念には念を、と、サナエさんと冒頭のうまくいってない父娘とを軽く接触させる。
この場では顔見知りになった程度。

9.占い師宅

占い師さんはサナエさん以外の人たちを追い返してしまう。
占い師さんはサナエさんの前世の話を信じるどころか、サナエさんが訪れてくるのを待っていたらしく。
見えない相手と会話している様子の占い師さんをサナエさんは不気味がるものの、占い師さんは妖精さんたちのことを見ることができるみたいでした。

そして話はサナエさんの前世、すなわち〈おさん〉さんのお話へ。

10.謎の空間

おそらく貧しい農家。
父親は酒浸り、母親も娘である〈おさん〉には冷たく接している。
〈おさん〉は赤子を背負って子守唄を歌っている。子守唄は竜神様の子守唄らしい。
やがて〈おさん〉は人買いに売り飛ばされてしまう。

11.女郎屋〜17.お座敷の一角

〈おさん〉は子守りなどの下働きをさせられていた模様。
姉さんが子を産んで妹分に客をとられたり、妹分のひとりがアブナい趣味の客に気に入られたものの拒んでしまい折檻されたり。
そうこうしているうちに姉さん2人が足抜けしようとして、〈おさん〉も同行することに。

18.町の一角

しかし、追っ手がかかってしまい、姉さん2人はあっけなくばっさり。
〈おさん〉だけが命からがら生き延びる。

第1幕 完。

幕間

15分間の休憩。
前述したように、「え?、ここで終わるの?」と困惑しきりでした。

余談ですが、遊郭の場面、遊女の中にはおそらく中学生くらいの子もいたのではないかと思うと、少しやましい気持ちになってしまいました。


【2幕】

1.謎の空間〜2.町角〜3.吉田家

逃げ延びた〈おさん〉を吉田カンベエ様が養子として大事に育てることに。
ただ、カンベエ様は1代で商売を成功させた成り上がりであることに加えて夫人との間に子が無く、跡継ぎをどうするのかと村人の間でも噂になるくらい。

そんな中でも、カンベエ様の奥さんが〈おさん〉に簪を贈ったりと、〈おさん〉はカンベエ様夫妻からは大切に育てられてきた様子。

4.寺子屋

寺子屋には勉強しに来ている子が大勢。
武家の子も、商人の子も、大工さんの子も、農家の子も、みんな半紙を真っ黒にするくらい、熱心にお勉強。
そんな素朴な子たちであっても階級意識はあるらしく、〈おさん〉は簪を折られてしまう。

5.吉田家

寺子屋へ行きたくないと言って引きこもってしまった〈おさん〉を、カンベエ様が説得します。
恨むのではなくて、なんかこう、受け容れる的なことを言っていたような気がしましたが、ちゃんとした言い回しは頭に入っていませんでした。

体裁上は、カンベエ様と〈おさん〉は父娘という関係ですが、〈おさん〉はカンベエ様に対して親に対する情以上のものを抱いているようにも見える気がします。

6.町角

やがて、カンベエ様と奥さんとの間に子が産まれます。
それでもカンベエ様夫妻は〈おさん〉を実の子のように扱い、実子も〈おさん〉を姉のように慕います。

7.埋め立て現場

カンベエ様は新田の開拓に乗り出します。
横浜村に広がる湾を埋め立てることができれば土地が広がって今よりも豊かになるはずだ、と考えたためです。
外国人のアドバイザーも雇って、村を挙げての大事業です。

しかし、大嵐にみまわれて堤防が決壊、大洪水。大勢の犠牲者が出てしまいました。
大嵐は〈おさん〉の歌う竜神様の子守唄によって、勢いが弱まったようでもありました。

8.吉田家

カンベエ様は新田開拓を諦めようかと迷いますが、奥さんの説得で再び立ち上がります。

しかし、村人は猛反対。
とくに犠牲者の遺族の怒りは大きいものでした。
また、カンベエ様は指揮をとるだけで楽をしている、実際に汗を流しているのも、犠牲になるのも、貧しい村人だ、と反感を買ってしまいます。

そこへ陰陽師様が、竜神様を鎮める案を示します。
すなわち、人柱を捧げよ、と。
そして人柱にはカンベエ様の実子こそふさわしい、と。

カンベエ様は泣いて許しを請います。
自分の身であれば村のために捧げる覚悟はできている。しかし娘は勘弁してほしい。
村人はおさまりません。とくに先の洪水で夫や父や子を失った遺族からしてみれば、何を甘っちょろいことを言っているのか、と。
そうこう紛糾する場に〈おさん〉が割って入ります。自分が人柱になります。

9.海辺

そして白装束をまとった〈おさん〉が人柱として捧げられ、天に昇って竜神様を鎮めたのでした。
その後は水害もおさまり、新田の開拓ができ、現在の横浜周辺の埋め立て地となったのでした。
めでたしめでたし。

10.吉田家〜11.埋め立て現場

とはいかず、その後、カンベエ様は〈おさん〉を犠牲にしたことを悔いたまま悲嘆のうちに一生を閉じたそうです。

12.占い師宅

ということで現代。
サナエさんは自分が〈おさん〉の生まれ変わりであることを自覚します。
同時にこれまでの自堕落な生活を振り返ります。

そして、妖精さんから「カンベエ様の生まれ変わりが現代で悩んでいる。〈おさん〉を見殺しにしてしまった自分を諫めて、自分だけが幸せになってはならないと悔いている。そしてそのために娘を愛することができないことにも心を痛めている。」と伝えられます。

サナエさんはカンベエ様(の生まれ変わり)を助けようと決心します。

13.佐々木家

サナエさんはカンベエ様の家へ向かいますが、真っ正面から「〈おさん〉の生まれ変わりでーす」と自己紹介してしまい、変な人だと思われて追い出されてしまいます。

14.土手

しかし、カンベエ様の娘さんがサナエさんを追いかけて話を聞いてくれました。

15.佐々木家

サナエさんの話を信用した娘さんは、改めて父親と向かい合います。
そして伝えます。かつて〈おさん〉が寺子屋へ行かなくなった時にカンベエ様が勇気づけてくれたのと同じあの言葉で。

遥かなる時を超えて、人の想いは繋がっていく。
これによって、長きにわたる〈おさん〉の因縁が決着したのでした。
ハッピーエンド。

人柱もののお話としては類型的かもしれませんし、サナエさん側はともかくカンベエ様側の家庭事情はちょっと無理がある気もしましたが、(ママさんのピンク色のセーターがなんだかのび太のママっぽかったり)、ともあれ、ミュージカルとしてはとても力が入ったもののように感じました。

音楽も、時折ウテナっぽいとかなんか聞いたことあるようなのもあった気がしますが、何より歌詞を聞き取りやすい、日本語の抑揚と整合のいいメロディーだったように思います。
とくに印象的なのはメインテーマの「遥かなる時を超えて」ですが、遊郭の女将さんのソロ曲(「なめんじゃないよ!」みたいなセリフが入るやつ)も良かったです。