さいはてにて 感想

映画「さいはてにて 〜やさしい香りと待ちながら〜」を観ました。

日本語字幕版。

女性が独りで自立して生活を営むことの難しさや、女性が独りで子どもを育てることのたいへんさを描いたお話だったと思います。

乙嫁語り」7巻で描かれた姉妹妻制度のようなものが、やはり現代日本でも通用するし、必要に思えるようなお話でした。

夫の人が居るわけではないので厳密には姉妹妻制度とは違うのですが、むしろ、こういう婚姻関係を持たない人たちが互助的に共生できる制度があってもいいのではないかと思えます。



海に面した岬にぽつんと立つコーヒー屋さんのお話ということで、吉永小百合さん主演の「ふしぎな岬の物語」みたいな感じだろうと勝手に想像していたのですが、
そして実際に設定としては似通った部分もあったように思いますけれども、
主眼として置かれた題材はずいぶん違ったもののように感じました。



モチーフのひとつが、宮沢賢治の「よだかの星」。

あの「生きること」に対する深い絶望と悲しいほどの高潔さ。

主人公・永作博美さんの背景にどういう経緯があったのか詳しくは語られていませんけれども、いろいろあったのだろうとは推察できます。

もうひとりの主人公である佐々木希さんも、決して虐待する意図はなくてむしろ大切にしているし、子どもたちも母親を慕っています。

金銭的には苦しい生活かもしれませんけれども、心情の面では、満たされているというほどではないにせよ、欠損しているわけではありません。

そんな慎ましやかな家庭であっても、横暴な男の闖入によってかき乱されてしまう。

独り自立して経営を切り盛りする女性の生活を打ち壊そうとする。

男性性に対する凶暴さへの恐怖や嫌悪や絶望を感じますし、それがぼく自身の中にも内在していることが、悲しいし、つらいです。

わざわざ相撲部の姿が挿入されたのも、もしかしたら男性性を象徴したのかもしれないみたいな気持ちになってきました。

世の中の男性すべてが悪い、と糾弾するわけではなく、たとえば永作博美さんのお父さまはどうやら善良な人だったらしいっぽく描かれてもいますけれども。

男性性の醜さなんてものは、この際、たわいもない些細なことなのかもしれません。

女性の人たちの、ほどよい距離感に美しさを感じることができれば、それでいいような気もします。

「百合」という用語を使ってしまうとあまりにも単純化しすぎてしまって、その内包する繊細さが失われてしまう危険性もあると思いますけれども、広義の意味での「百合」には、この作品のような微かな雰囲気のものも含まれていいのではないかと思います。

露骨なまでの青色推しで、むしろ蒼いくらいではないかと思えますけれども、色彩的な意図とかも詳しい方なら読み取ることができるのでしょうか。

上映前に撮影地のPR広告が流れて、このくらいアピールする気概というのも清々しいものだと思えます。

個人であれだけの設備機材を導入してもその上でそれなりに収入があるらしいとか、コーヒー屋さんって実は優良商売なのかしら。

審美眼や鼻の良さや経営手腕が必要なのかもしれませんけれども。