獣の奏者4完結編

上橋菜穂子獣の奏者4完結編」(講談社)を読みました

商都市だの、異国の文化だの、と世界が広がったり、
王獣と闘蛇に関する謎が深まったりしてきたわけですが、
それらを包括しながらも、最終的には、エリンさんの物語として、綺麗に収束しました。

問題がすべて解決したわけではないと思いますが、これ以降の展開については、読者自身が各々、しっかりと受け止めて考えていくべきなのでしょう。

母の意思を受け継いで息子くんがそうしたように。



本来なら絶賛するような感想を書きたいし、少なくとも、読後の興奮と充足感はとても大きかったのですが、
いざ感想を書こうとすると、どうにも不満というか、もっとああすればよかったのにとか、あそこでこうしていたらどうなっただろうとか、欲張りなことを考えて、なんだかネガティブな方向になってしまいそうでした。



?探求編のときにも書きましたが、本書では所々に、宮崎駿さんのコミック版「風の谷のナウシカ」を連想させるような描写があります。

これは、ぼくの中で、コミック版「ナウシカ」は、かなり大きな存在であるために、どうしても比べてしまうということもあるかもしれませんが、
獣の奏者」と「ナウシカ」の根幹が、「生命とは何か、どうしてこのように在るのか」という、根源的な問いを共通して発しているためではないか、とも思います。

そして、ナウシカさんはあくまでも疑似的な母親にしかなり得ませんでしたけれども、
エリンさんは、自らが伴侶を得て、子を生み育てました。

リランさんの出産もそうでしたが、生命を主題として扱う作品として、この生命の継承がしっかりと描かれている意味は大きいのでしょう。

逆に、ナウシカさんが、見方によっては独善的な破壊者に見えてしまうのは、結局、産み出すことができなかったためというのもあるかもしれません。

一方、政治や戦争については、リョザ神王国側の視点しか描かれなかったのは、残念と言わざるをえません。

せっかく、敵国ラーザが象徴的ながらも魅力的な政治形態を持っているだけに、それが充分に機能したとはいえないような気がしてしまいます。

商都市についても同様。
複雑な立場ながらも、エリンさんと意気投合した、隊商都市の長クリウさんみたいな魅力的な人物が登場して、自分勝手ながら活躍を期待してしまっていたので、肩透かしというか。

ナウシカ」では、クシャナ殿下にしろ、土鬼の皇弟、皇兄にしろ、圧倒的な存在感を示す人が複数立っていて、それだけ多様な視点の広がりがあったわけですが、
この「獣の奏者」では、結局、よくも悪くもエリンさん一人の物語として閉じてしまったような印象ばかりが残ります。

細かいところではいろいろ、セィミヤさまのお世継ぎについてとか、シュナンさまの妹君とか、あるにはありましたけれども……



ともあれ、「獣の奏者」が屈指の名作であることには疑いありません。

風の谷のナウシカ」との対比については、主題を読み解くための補助線のひとつとして有効ではないかと愚考する次第です。