世界名探偵倶楽部
パブロ・デ・サンティス(宮崎真紀訳)「世界名探偵倶楽部」(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読みました
著者はアルゼンチンのブエノスアイレスの人で、
本作は、中南米スペイン語圏文学の普及のために創設された、2007年第1回プラネタ-カサメリカ賞受賞作だそうです。
『1889年パリ万国博覧会を舞台にした連続殺人事件の捜査に知恵を絞り、競いあう、世界でも選りすぐりの〈十二人の名探偵〉――。』
ということで、アルゼンチン、フランス、フランス、ポルトガル、イタリア、イギリス、ドイツ、スペイン、ギリシャ、アメリカ、日本、オランダ、という、世界各国を代表する〈十二人の名探偵〉と、その助手(側近・アドラテレ)たちが、
パリ万博の開催を期に、一堂に会することになります。
主人公のシグムンド・サルバトリオくんは、アルゼンチンの名探偵レナート・クライグに弟子入りしていましたが、
とある事情により参加できなくなったクライグ探偵の名代として、〈十二人の名探偵〉の会合へと赴くことになるのでした。
大勢の名探偵というと、清涼院流水さんのJDCシリーズが思い浮かびますが、
本作では、〈探偵〉と〈助手〉の関係にも着目していて、麻耶雄嵩さんの作品における木更津探偵と香月くんの関係なんかを彷彿します。
とくに、1889年のパリ万博という時代設定が絶妙で、
エッフェル塔に象徴されるような科学技術の台頭によって、人の世の闇に潜んでいたような〈謎〉が、白日の下に、いや、電灯の下に(?)照らし出されてしまい、
もはや〈名探偵〉が解決するべき巧妙な〈謎〉など無くなってしまうのではないか、という危機感の隠喩として、見事に機能しているように思えます。
輝かしい希望に満ち溢れた栄光の時代の中に、現代にも通じる閉塞感が浮かび上がって見えます。
それはそうと、冴えない男性ばかりが登場する物語の中で、鮮やかな彩りを飾っている女性陣も素敵です。
いずれもネタバレになりそうですが、美しさと強さと儚さを兼ね備えた、まさに、物語の花だったのではないかと思います。