虚空の旅人

上橋菜穂子「虚空の旅人」(新潮文庫)を読みました

〈守り人〉シリーズ4作目です。


新ヨゴ皇国皇太子のチャグム殿下は、隣国サンガルの新王即位の儀に招かれます。

サンガル王国は、大陸の南端に位置していて、海に浮かぶ島々を支配している、海の王国です。

そこでチャグム皇太子を待っていたのは、サンガル王国だけでなく、新ヨゴ皇国を含む北の大陸全土や、異世界ナユグまでをも巻き込むことになる、壮大な陰謀でした…。


ということで、チャグム皇太子は、多層的な感情の入り乱れる複雑な異国文化に触れることになります。


中央の王族と支配下の島々との確執だったり、
陸に暮らす人々と海を漂う人々との価値観の違いだったり、
野心溢れる男社会と国を支える女社会との乖離だったり、
異世界ナユグの神秘だったり、
遥か遠い国の変革が世界中を波乱の渦に巻き込もうとしていたり…


チャグム皇太子は、サンガル国王の次男で同年代のタルサン王子と親しくなります。

タルサン王子は、血気盛んな面もありますが、実直で力強い、まさに海の男な感じの少年です。

が、そんなタルサン王子も陰謀に飲み込まれて窮地に立たされてしまいます。

弟タルサン王子を、国王の三女のサルーナさまは助けようとします。

一方で、王国を危機から救うため、国王の長女のカリーナさまも策を巡らせます。


というわけで、本書の最大の見どころは、
弟を守ろうとする情の厚いややぶらこん気味のサルーナさまと、
国を守ることに重きを置く冷徹で冷静沈着なカリーナさまとの駆け引きではないかと、個人的には思いました。

どことなく、劇場版のなうしかとくしゃな殿下を思わせる、
共有の賢さを軸にした温かさと冷たさとの対立、のようにも見えます。

カリーナさまの、落ち着いていて理知的でありながら、それがすべて王国へ向いてしまっているために、なんとなく足元が弱いような、どことなく脆さを感じさせるようなあたりが、その魅力を増しているかのようです。


カリーナさまと、ややないがしろにされがちな夫のアドルとの、見解の相違もちょっぴりおもしろいです。

アドルさんがかわいそう。