永遠の森 博物館惑星

菅浩江「永遠の森 博物館惑星」(ハヤカワ文庫)を読みました♪

巻末の解説で書かれている通り、「世界はSF、題材はアート、手法はミステリ」という、美味しいものばかりを寄せ集めたような贅沢な素材の上に、
「知的で、軽やかで、ロマンチックで、どことなくノスタルジックな香りがする」という、味付けまで絶妙に仕上げられた、極上のお話です。
ぼくにとって。


地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館<アフロディーテ>の学芸員・田代孝弘を中心に、様々な美術品をめぐる九つの物語が展開されます。


「I 天上の調べ聞きうる者」は、天上の調べが聞こえるという、一見、美術的な価値のなさそうな抽象画のお話。
この前読んだ「虎よ、虎よ!」に通じる、視覚と聴覚との共感覚の世界。

「II この子はだあれ」は、寂しげな、不思議な表情をした人形の名前を捜すお話。
表情も名前も、そこに意味を見出だそうとしてしまう不思議。

「III 夏衣の雪」は、和笛の家元襲名披露リサイタルのお話。
先代の継承式典でも行われたという夏に雪を降らせる奇跡やら、兄弟の確執やら。
着物の描写が丁寧で、わからないながらも、凛とした雰囲気を感じます。

「IV 享ける形の手」は、一世を風靡した天才ダンサーのお話。
力強く繊細で、激しくもしなやかな、踊りの描写がとても魅力的です。

「V 抱擁」は、初期のシステムに接続している先輩学芸員の悲願のお話。
五感だけでなく、全身で受け止める、圧倒的な美の力への渇望、でしょうか。

「VI 永遠の森」は、類似した、バイオ・クロックとオルゴールのお話。
両者に込められた、「永遠」と「期待」の、静かで優しい、柔らかなお話。

「VII 嘘つきな人魚」は、海の養分として作られた人魚像と、その作者のお話。
作者と作品との関係や、身体と意識の在処について?

「VIII きらきら星」は、宇宙から飛来した植物の種子と五角形の彩色片と、超越的な黄金率のお話。
ありのままの自然の美と、人工的で意図的な美と、どちらにも共通する、黄金率。
形状と音楽との融合も見事です。

「IX ラヴ・ソング」は、Iから見え隠れしていたグランドピアノと孝弘の妻・美和子のお話。
VIIIの宇宙植物も関連した、壮大な愛の歌ですね。
全編を通して、美の理論や分析を展開しつつ、理屈を超えた美の在り様が描かれてきたわけですが、
最後に鮮やかに華やかに結晶します。