夢の守り人

上橋菜穂子さんの「夢の守り人」(新潮文庫)を読みました。

TVアニメの地上波放送も始まった、「精霊の守り人」シリーズの三作目です。


舞台や登場人物は、一作目の「精霊の守り人」にほぼ準拠しています。

二作目の「闇の守り人」では舞台も登場人物もずいぶん変わっていたので、懐かしい顔ぶれにちょっぴり嬉しくなります。

主人公の女用心棒バルサと一緒に、新ヨゴ皇国へ帰ってきた気分です。


新ヨゴ皇国では、
皇太子を亡くした、皇帝の一ノ妃や、
バルサの幼なじみタンダの姪で、結婚を控えた少女カヤが、
人の夢を糧とする異界の<花>に囚われて、数日間眠り続けていました。

一方、バルサは、不思議な歌の歌い手ユグノと出会います。

<花>とユグノは、大呪術師トロガイの過去を介した因縁があったのでした…。


お話は、<花>の夢に囚われた人々の救出を中心に、トロガイの過去、バルサとタンダの絆、亡くなった兄に代わって新しく皇太子となったチャグムの苦悩と決意などを、描き出します。



本作のキーワードは、「夢」です。

<花>に囚われた人々は、つらい現実から逃れようと、幸せな夢の世界へと逃避していたのです。

作中から引用すると、「帰ってこられないんじゃない。帰ってきたくないんだよ。」

あらがえないほどに心地よい、本人が望むままの夢を見続けることができる世界と、対決しなければなりません。


この「夢」に囚われてしまう危機感は、ぼくのような、非日常的だったり空想的だったり幻想的だったりといった架空の物語を好む人間にとっては、致命的で切実な問題だったりします。

ともすれば、いつまでも物語世界に浸っていたい、現実社会に戻りたくない、という感覚に囚われかねません。


そんなぼくにとって、本作の最後を飾る、吹き抜ける風、朝の光、水の輝きといった、夏の日の匂いは、
とても力強く、眩く、鮮明に、爽やかに、
現実以上の現実を感じさせてくれたように思います。