虎よ、虎よ!

アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」(中田耕治:訳、ハヤカワ文庫)を読みました。

梶尾真治さんの「クロノス・ジョウンター」の由来として出てくる作品です。


太陽系の惑星・衛星へと生活圏が広まった時代。

ジョウント”と呼ばれることになる、テレポーテイション能力を獲得するところから、お話は始まります。

ジョウント能力の普及で、社会は混乱し、経済は破綻し、内惑星連合(金星、地球、月、火星)と、外衛星同盟(木星土星海王星の衛星群)との戦争が勃発します。


そんな中、主人公のガリヴァー・フォイルは、破壊された宇宙船《ノーマッド》の乗組員で、唯一の生き残りでした。

百八十日に及ぶ漂流の末、ようやく救出されるかと思いきや、接近してきた宇宙船《ヴォーガ》は、彼を見捨てて通り過ぎて行ってしまいました。

そして、ガリー・フォイルは《ヴォーガ》への復讐を誓ったのでした。


…というような、復讐のお話です。

が、困ったことに、復讐対象が漠然としていて特定するのに手間取ったり、相手が強大過ぎて返り討ちに合ってしまったり、なかなか思うようには復讐を果たせません。

フォイルの視点だけではなくて、相手側の視点でも語られていくのですが、最終的な黒幕(?)の素性がまた厄介で、一筋縄ではいきません。

むしろ、この黒幕さんの観ている世界の、想像を絶する圧倒的な美しさには、心を動かされました。


黒幕さんも含めて、このお話を通して、「感覚」がとても新鮮に、刺激的に描かれています。

視覚だけではなくて、聴覚も触覚も味覚も嗅覚も、某「サトラレ」のようなテレパスも…

終盤、空間だけでなくて時間も感覚も超越していく様子は、なんとも圧巻でした。

それこそ、「文字だけでは表現しきれない」くらい


プロローグで語られるジョウント能力獲得の過程が、この終盤で見事に実を結びます。



それにしても、この復讐譚、フォイルの他にも復讐を目論む人たちが大勢登場するわけですが、巻き込まれた人たちは、たまったもんじゃないですね〜

まったく、はた迷惑なことこの上ないです。

フォイルの象徴となる、虎模様の刺青を施した人たちなんかは、とばっちりをくらったようなものですよね…



…ところで、最後のオチは、ドグラマグラってことでよろしいのでしょうか???